浅田和茂先生 追悼文
浅田和茂先生のご逝去
大阪市立大学名誉教授の浅田和茂先生が、2023年8月12日(享年76歳)に逝去されました。浅田先生は、刑法がご専門で、日本フンボルト協会副理事長、日独共同研究奨学金選考委員会委員長などを歴任され、 本協会の運営に多大なる貢献をされました。本協会の各種会議では、浅田先生は、穏やかな口調ながら的確な ご意見を述べられ、大変ありがたい存在でした。この度、浅田先生ご逝去の報に接することは、痛恨の極みで あり、誠に残念でなりません。浅田先生の本協会に対する ご尽力に対し、厚く御礼申し上げますと共に、 本協会を代表し、心から浅田先生のご冥福をお祈り申し上げます。
日本フンボルト協会理事長 伊藤 眞
石井紫郎先生を悼む 田口 正樹
石井紫郎先生が今年1月17日に87歳で亡くなられた。心からご冥福をお祈りしたい。
先生は日本法制史の分野で大きな業績を遺した。石井先生の業績が他に類を見ないのは、西洋史とくにドイツ史の深い理解にもとづいて、日本の歴史上の「法」(先生は西洋世界の法と「日本で法といわれているもの」との違いを忘れないように、しばしば「法」とカッコ付きで表記した)と国制を観察した点である。その成果は、「日本国制史研究」と副題を付された3冊の論文集(『権力と土地所有』1966年、『日本人の国家生活』1986年、『日本人の法生活』2012年、いずれも東京大学出版会)や英文論集Beyond Paradoxology, 2007などにまとめられている。
このような石井先生の仕事はドイツ学界との長く密な交流に支えられていた。先生はフンボルト奨学生としてハンブルク大学のオットー・ブルンナーのもとで学び、その後もベルリン自由大学で客員として日本史を講じ、またカール・クレッシェル(フライブルク大学)、クヌート・シュルツ(ベルリン自由大学)といったドイツの法制史学界・歴史学界を代表する研究者と親しく交際した。(シュルツ教授とはテニス仲間であったと思う。クレッシェル教授に先生逝去を筆者が電話でお伝えした際の教授の嘆息も忘れられない。)
ブルンナーの研究を日本に紹介した比較国制史研究会で、石井先生は長年中心メンバーとして活躍した(その成果として例えばオットー・ブルンナー(石井紫郎他訳)『ヨーロッパ-その歴史と精神』1974年 岩波書店)。筆者も途中から会に入れていただいて、研究会の会合などでもお目にかかる機会があった。石井先生は「万能人」で、大学行政(東大法学部学部長時代の仕事ぶりには、行政面で能力の高い同僚の先生方が驚嘆していた)でもスポーツ(野球、テニス、相撲観戦…)でも何でもできる方であったが、茶目っ気とサービス精神も人一倍であった。研究会の合宿でカラオケが用意された際には、加山雄三の「君といつまでも」をサラリと歌い、中途のセリフ部分では「僕は幸せだなぁ、研究会の先生方と一緒にいられて…」などと語って笑いをとっておられた。服装などもいつも洒脱で、凝った色調のジャケットを着こなしておられたが、あるとき筆者が背伸びして購ったのと同じ上着を先生が着ておられるのに気が付いて驚いたことがある。その後先生と同席する際には着ないように気を付けていた上着も今ではだいぶくたびれてきたが、先生の思い出とともにこれからも大切にしようと思う。
日本フンボルト協会理事
東京大学 教授
田口 正樹
2023年度日本フンボルト協会『日独共同研究奨学金』
採択結果発表
2023年度日本フンボルト協会『日独共同研究奨学金』採択結果発表
2023年度の本奨学金には、4件(文系1件、理系3件)の申請があり、選考委員会で厳正・公平に審査した
結果、以下の3件が助成対象共同研究として採択されました。祝意をもって発表いたします。
1. 研究課題:『超高速蛍光寿命イメージングによる細胞内小器官の大規模解析』
ドイツ語:Großflächige Analyse intrazellulärer Organellen durch ultraschnelle Fluoreszenz-Lebensdauer-Bildgebung
助成対象者: Vishnu Narayanan Suma Sreechakram,
所属機関及び専門分野: Justus-Liebig-University Giessen、Biological Sciences
申請者氏名(所属、研究分野): 合田 圭介 (東京大学大学院理学系研究科、物理学、化学)
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2.研究課題:『日本の一党支配体制における立法上の野党の役割』
ドイツ語:Die Rolle von Oppositionsparteien in der Legislative
im von einer Partei dominierten System Japans
助成対象者:Elena Korshenko
所属機関及び専門分野:ベルリン自由大学 歴史・文化学部日本研究所、日本政治
申請者氏名(所属、研究分野): 小嶋 大造 (東京大学大学院農学生命科学研究科、公共政策(農業政策、財政政策))
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3. 研究課題:『原子核時計実現に向けたトリウム229イオンのレーザー冷却技術の開発』
ドイツ語:Entwicklung einer Laserkühltechnologie für Thorium-229-Ionen
zur Realisierung einer optischen Uhr
助成対象者:Johannes Tiedau
所属機関及び専門分野:Physikalisch-Technische Bundesanstalt、原子時計・イオントラップ・量子光学
申請者氏名(所属、研究分野): 山口 敦史 (国立研究開発法人 理化学研究所、原子時計・原子のレーザー
精密分光・イオントラップ)
★ 日独共同研究奨学金制度は、2024年度も実施しますので、会員諸氏の申請をお待ちしています。
なお、2024年度の本奨学金(2024年度10月公募開始)についての詳細は後日、本協会HP上に掲載しますので
ご覧ください。
日独共同研究奨学金実施委員長
伊藤 眞
日本フンボルト協会副理事長
2023年度日独共同研究奨学金選考委員長
浅田和茂
西原春夫先生を偲んで 仲道正樹
早稲田大学名誉教授、早稲田大学元総長の西原春夫先生が、2023年1月26日に逝去されました(享年94歳)。
西原春夫先生は、刑法学を専門とされ、多くのご業績を残されました。とりわけ、モータリゼーションの時代の到来を見越し、当時の西ドイツの判例において確立した「信頼の原則」を、いち早く日本に紹介されたお仕事は、日本における交通事故と過失犯の関係について、理論的な指針を与えるものとなりました。信頼の原則は、その後、日本の最高裁判所の採るところとなり、日本における交通事故の実務を規定する理論ともなったのです。
西原先生の刑法学におけるご業績は、ドイツの刑法学、そしてドイツの社会への深い洞察に基づくものでした。西原先生は、1962年8月、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団からの奨学金を得て、フライブルク大学外国国際刑法研究所(その後、マックス・プランク外国国際刑法研究所を経て、現在、マックス・プランク犯罪・安全・法研究所)に留学をされました。西原先生がご留学された当時の所長であったHans-Heinrich Jescheck教授をはじめ、その後任を務めたAlbin Eser教授、Ulrich Sieber教授の3代の所長との間で築かれた関係性は、刑事法分野における日独学術交流の屋台骨ともいうべき緊密さを持つものであったといえるでしょう。また、フライブルクで培われた他国の研究者とのネットワークは、その後の日独、そしてドイツ語を媒介とした様々な学術交流へと発展することとなり、多くの刑事法研究者がそこから多くのことを学んだのです。
筆者が西原先生のご厚意により帯同させていただいた、2016年のマックス・プランク外国国際刑法研究所50周年記念式典の際、全体のセレモニーにおいて、当時のSieber所長から特に西原先生のお名前が挙げられたこと、そして世界中から多くのゲストが集まる中、西原先生にスピーチの機会が与えられたことはここに特記すべきでしょう。世界の刑法学の中で、これほどの扱いを受ける日本人刑法学者がいるという事実は、当時ドイツでの研究1年目を終えようとしていた筆者にとって、西原先生の築かれてきたものの重さを肌で実感するに十分なものでした。そして、同時に、これをわずかばかりでも引き継ぎ、さらなるネットワークへとつなげていくことが、フンボルティアーナーとしてドイツにいる者の責務であることを、そこではじめて理解したのです。
西原先生は晩年に至るまで、旺盛な探究心を持ち続けておられました。そして、社会のこと、次代のことを常に考えておられました。西原先生のご逝去は、まさに「巨星堕つ」と表現するほかないものです。
先生のご学恩を受けた者の一人として、ここに謹んで、西原春夫先生のご冥福をお祈り申し上げます。
日本フンボルト協会理事
早稲田大学教授
仲道 祐樹
オンライン ドイツ研究留学説明会(2023.03.25) の録画公開
日本フンボルト協会主催、DAAD東京事務所共催のオンライン ドイツ研究留学説明会(2023.03.25)の録画を以下のYouTubeに掲載しましたのでご参考のためにお知らせします。内容は以下の通りで約1時間の録画となっています。フンボルト奨学金、DAAD奨学金(博士課程向け)についてわかりやすく解説していますので、関心のある方は是非ご覧ください。 https://youtu.be/zF87Spqh3E4
①日本フンボルト協会理事長 伊藤 眞 挨拶
②DAAD奨学金(博士向け研究奨学金)についての説明 30分
③フンボルト奨学金および日本フンボルト協会による留学支援についての説明 15分
④フンボルト奨学金について 20分
なお、以下のDAAD東京事務所のWeb サイトでもご覧いただけます。https://www.daad.jp/ja/2023/04/04/avhdaad/
(以上です)