ドイツの学術研究の動向

在独PIによるドイツの学術研究の紹介(第8回)
「ドイツの研究環境について」中山雅敬(血管生物学)

2019-04-20

在独PIによるドイツの学術研究の紹介(第8回)
「ドイツの研究環境について」中山雅敬(血管生物学)

 私は、2006年に名古屋大学医学系研究科で学位を取得したのち、2008年1月よりドイツに来て血管研究に従事しております。大学院時代に循環器内科や血管外科の方と共同研究をする機会に恵まれ、同分野に興味を持ちました。血管の不具合は様々な疾患に関わっており、治療の際の方針も明確に決まっておりますが、血管発生のメカニズムは驚くほど未解明でした。同分野で今では大御所ですが、当時注目の若手研究者だったRalf Adams博士がMünster市にあるMax Planck Institute for Molecular Biomedicineに移るということで、私はRalfの研究室にポスドクとして参加し、幸いにも論文に恵まれ2013年からBad Nauheim市にありますMax Planck Institute for Heart and Lung Researchで研究室を主宰しています。ドイツの血管発生研究は非常に強く、Münster、Berlin、Giessen/Bad Nauheim/Frankfurt といった地域は世界的にも有数のクラスターを形成しています。私の研究室も、そういった環境の中、刺激をもらいながら研究活動に励んでおります。
 私は、日本で大学院に入ってから研究に携わるようになりました。6年間大学院生として、1年間ポスドクとしてトレーニングを受けた後、ドイツに来てから10年以上過ごしています。研究者としては二つの国にオリジンを持つように感じます。日本では、研究のあらゆる側面を自分自身で完結するようにトレーニングを受けました。実験の立案、実施、データの解析のみならず、試薬の準備、器具の洗浄なども自分で行いました。当時研究室に滞在している時間はとても長く、経験しないとわからないことが存在しますが、経験の幅が広いと、想像力を働かせることである程度カバーできます。これらの経験は研究室を主宰するにあたり役に立っています。一方、ドイツでは分業がしっかりしています。洗い物や試薬の準備など自分ですることは皆無でした。結果、研究室に滞在する時間が短くなり、空いている時間で自分の持っているデータ、プロジェクトそのものに向き合う時間が増えました。そうすると、日本でやって来たことの意味合いを別の視点から考えることができるようになりました。これらの経験を通じ、自分自身が改善していったことは言うまでもありません。
 分業制のメリットは、それだけに留まりません。近年生命科学分野では、測定技術の進歩に伴い、一つの仕事をまとめるにあたり、膨大な量の実験を求められます。また、複数の技術を組み合わせ、仮説を検討すること求められますが、もはや個人の能力で対処するのは不可能なのでは?と思わせられることも多くあります。こういった際に分業制というのは力を発揮します。共同研究は日本でももちろんしますが、分業の効率の良さは全く異なるように感じます。分業制の良さは研究のみならず、実生活にも好影響を及ぼします。私のところは妻も研究をしていますが、共に研究をしながら、子供三人育てています。ドイツの制度の恩恵を受けているのは間違いありません。日本では女性の社会進出が問題になっていますが、こういったドイツの制度が参考になるのではないかと思います。一方、ドイツの制度が薔薇色かと言われるとそうではありません。女性研究室主催者を増やす必要性がよく議論されますが、ドイツでもその数は十分とは言えません。
 いつも試行錯誤しているのは日本もドイツも同じです。外国人として外国に暮らすと、それまで見えなかったものが見えるようになります。研究者として二つのオリジンを持つことで、両国に対して貢献できるかと感じています。この文章を読むであろう日本におられる方が、ドイツに来て研究する意義は深いと思います。

略歴
京都大学農学部卒業後、名古屋大学医学部学位取得。渡独し、Max Planck Institute for Molecular Biomedicineでポスドクを経験した後、2013年よりMax Planck Institute for Heart and Lung ResearchにてIndependent group leader。

Copyright(c) 2013 The Humboldt Association of Japan All Rights Reserved.