日独学術交流雑記帳

清水扇丈(しみず せんじょう)氏がフンボルト財団 Bessel 賞を受賞されました。

2014-07-07

清水扇丈(しみず せんじょう)氏(静岡大学院理学研究科教授)
Friedrich Wilhelm Bessel Research Awards(Alexander von Humboldt 財団・ドイツ)の受賞によせて
–Humboldt 財団 Annual Meeting,  ベルリン2014年6月3日―5日に参加して—

毎年6月になるとHumboldt 財団の年会がドイツの首都ベルリンで開催されます.今年の参加者リストは572名を数えましたが,その家族や財団のスタッフも含めると優に1000人は超えていたでしょうか?
主な参加者はその年にHumboldt 財団の基金で招聘されているドイツ在住の世界各国からの研究者です.加えて同財団の各賞の受賞者も招待されます.その中に今年度標記のBessel賞を受賞された清水扇丈氏がおられました.
https://www.humboldt-foundation.de/web/press-release-2014-14.html

Bessel 賞はHumboldt財団によって授与され,毎年約20人を対象に,国際的に活躍し,世界最先端の学業成績を生み続けかつ専門の領域を超えて今後も活躍が期待できる研究者に授与される賞です.受賞資格は学位取得後18年以内で あり,ドイツの研究機関に在職する研究者がHumboldt 財団に推薦することにより選考委員会の審査に付されます.受賞賞金額は45,000ユーロで,受賞者は半年から一年間ドイツの研究機関に招待され,そこで研究に従事することが奨励されています.
http://www.humboldt-foundation.de/web/bessel-award.htm

清水氏の専門は数学における偏微分方程式論です.特に流体力学に現れる基礎方程式の数学的理論でこれまで顕著な業績を挙げてこられまし た.Bessel 賞受賞理由は,「Navier-Stokes方程式の自由境界問題,R-有界性,作用素Fourier-multiplierの定理,最大正則性理論に対する貢献」です.ちなみに,Navier-Stokes方程式とは流体の運動方程式であり,量子力学におけるSchroedinger 方程式とは異なる解の重ね合わせの原理が通用しない非線形偏微分方程式です.その解法は困難を極め,解の一般的な存在定理は,2000年にアメリカの Clay 研究所から「次の千年に人類が挑戦すべき数学のミレニアム7問題のひとつ」として100万ドルの懸賞金付きで提唱されました.http://www.claymath.org/millennium-problems

清水氏はこの難攻不落なNavier-Stokes方程式に対して,数学の抽象論である最大正則性定理を駆使してこれまで多くの研究成果を得 られました.最大正則性定理は,日本のお家芸ともいえる函数解析学の分野で80年代後半から今日まで盛んに研究されている数学の理論であり, この4半世紀に数学解析に与えた影響は計り知れません.受賞理由の「R-有界性」は最大正則性を検証する重要な概念で,清水氏はこの分野の研 究では我が国の第一人者として知られています.実際,2012年には日本数学会・函数方程式論分科会より「放物型方程式の最大正則性原理と流体の自由境界値問題」を業績題目として,第4回福原賞を受賞されました.http://www.math.kobe-u.ac.jp/dfe/
今回のBessel 賞受賞はその後に研究を更に発展させた業績が,世界,特にドイツの数学界に評価されたためと思われます.

授賞式自身は本年のBerlin における財団の年会ではなく,それに先だって42nd Symposium for Research Award Winners(2014年3月20日~23日 於:Bamberg) において開催されました.本年度・年会では和服姿の清水氏がひと際目立っており,清楚な装いでドイツ Joachim Gauck 大統領とHumboldt 財団プレジデントHelmut Schwarz 教授と一緒におられるところが印象的でした.残念なことに,Humboldt 財団のホームページにはBessel 賞の受賞に関する記載は僅少です.察するに日本だけではなく,国際的にも数学の分野において同賞を受賞された研究者は清水氏おひとりだと思われます.

今回の清水氏の受賞は日本数学会にとっても大きな喜びでもあると同時に誇りでもあります.理系の女性研究者の育成が日本の国家的目標であるこ とが叫ばれて久しいですが,清水氏は将にそのような女性研究者の素晴らしいモデルとも言えましょう.立派な研究業績に加えて2人のお子さんの 育児も同時にこなすなど,後進の若手女性研究者の憧れの目標となると思われます.益々のご発展を期待して止みません.

2014年7月
早稲田大学理工学術院・教授
日本数学会理事     小薗英雄

注:
Friedrich Wilhelm Bessel, 1784年7月22日 – 1846年3月17日)
ドイツの数学者,天文学者.恒星の年周視差を発見し,Bessel関数を分類したことで知られる.同じく数学者で天文学者でもあったカール・ フリードリヒ・ガウスと同時代を生きた人物である.http://ja.wikipedia.org/wiki/  からの引用

 

Senjo_Schwarz
授賞式の様子 Humboldt 財団プレジデントProf. Dr. Helmut Schwarz と清水扇丈氏(3月20日)

Senjo_President
年会のレセプション 左から清水扇丈氏,ドイツ大統領 Joachim Gauck氏,
Humboldt 財団プレジデントProf. Dr. Helmut Schwarz

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