日独学術交流雑記帳

ドイツ研究振興協会(DFG)のEugen und Ilse Seibold-Preisの受賞について

2015-08-22

ドイツ研究振興協会(DFG)のEugen und Ilse Seibold-Preisの受賞について

本澤巳代子(筑波大学)

7月初めにDFGから1通のメールが届きました。それまで、全くDFGとは縁がなかったので、何事かと思ってメールを読んで、本当に驚きました。長年の日独学術交流に対する貢献が評価され、Halle-Wittenberg大学のGesine Forjanty-Jost教授(日本学、政治学)と一緒に、私がSeibold賞を受賞することになったこと、2015年10月7日にボン大学の大学美術館で開催される授賞式に招待することなどが書かれていました。
同時に送られてきたDFGのニュース35号(2015年7月3日付)には、「日独の仲介者としての2人の女性」とのタイトルのもと、私の受賞理由が次のように書かれていました。①1970年代半ばから、ドイツの家族法および社会法について、多様な観点から法学研究を行ってきたこと、例えば離婚法と年金分割、育児休暇と育児手当の問題などの研究を行ってきたこと、②ミュンヘンのマックス・プランク外国・国際社会法研究所に2年間滞在した際、ドイツの介護保険について数多くのインタヴューを行い、その成果をベースに、日本における高齢者介護政策の分析および介護保険導入のための基盤となった書籍を1996年に公刊したこと、③学際的な活動を通して広いネットワークを持つ女性法律家として、数多くの日独会議や日独セミナーを開催し、経済学や社会科学、さらに医学の分野からも講演者を確保するなど、社会法および介護保険などのテーマに光りを当ててきたこと、そして④現在、世界的テーマである「グローバル・エイジング」に関わる国際的・学際的な研究センターの新設に専心していることが挙げられていました。どうして、私の研究活動や日独交流事業などを知っているのかと、不思議な思いがしました。
また、Gesine Forjanty-Jost教授については、①何十年もの間、独日両国の交流・協力関係に尽力するとともに、社会科学分野を中心にドイツの日本学に寄与してきたこと、例えば1988年に創設された社会科学分野の日本学協会(VSJF)の理事を長年務めるとともに、ドイツ日本フォーラムやベルリン日独センター、そして東京にあるドイツ日本研究所などの顧問や理事等を務めてきたこと、②1992年には、ハレ・ヴィッテンベルクのマルティン・ルター大学の政治学の教授となり、日本学講座を創設し、これをドイツにおける日本学の中心地の一つに発展させたこと、③専修大学、東京大学、早稲田大学、獨協大学、筑波大学との大学間交流協定の締結にイニシアティブを発揮したこと、④ドイツ研究振興協会が推進した東京大学における大学院講義「市民社会の変化-独日比較」に貢献したこと、⑤研究の中心である日本の環境政策を通じて、特に1990年代に公表した論稿を通して、ドイツの環境政策における議論に寄与したこと、⑥日独の学術交流に対する多大なる寄与が評価され、2013年には日本政府から旭日章を授与されたことが挙げられています。
ドイツ研究振興協会のSeibold賞は、1980年から1985年までドイツ研究振興協会の会長であった海洋学者Eugen Seiboldが、アメリカの環境保護者Lester Brownと共に、日本の旭硝子財団の「ブルー・プラネット賞」を受賞し、その賞金40万ユーロから15万ユーロを、妻のIlse Seibold博士と共にドイツ研究振興協会に寄贈した資金を財源としています。それゆえ、その基金は日独間の学術振興と相互理解の推進に資することを目指しています。そして、Seibold賞は、1997年以来、大体2年に1度の割合で、全ての学術分野を対象に日独の研究者に授与されていますが、人文社会科学(法学・経済学を含む)と自然科学(生命科学・医学を含む)の分野が交互に受賞することになっています。
今夏のドイツ出張の機会を利用して、8月7日にドイツ研究振興協会を訪ねました。その際、法学分野の担当者から受けた説明によれば、Seibold賞の受賞候補者は、年に3回ある審査委員会において決定されるとのことです。第1回目の審査委員会では、推薦を受けた多数の候補者を3段階のグループに分け、第2回目にはトップ・グループに振り分けられた複数の候補者について、推薦人2名の評価も含めて審査が行われ、第3回目の審査委員会で最終候補者を推薦するとのことでした。ちなみに、審査委員会の委員は、各学術分野における一流の研究者の中からドイツ研究振興協会が委嘱するものであり、学術的見地から独立した立場で判断をするものであるとのことでした。さらに、Seibold賞は、賞金額は少額だが、学術的に大変に名誉ある賞であるとも強調されていました。
私のような者が、このような名誉ある賞を受賞して良いのかという思いもありますが、これを機に更に精進し、微力ながら日独の学術交流と相互理解に寄与できればと思っています。それは、オーバードクターの身で大学教員ポストにつけず、精神的にも経済的にも苦しんでいた私に対し、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団が、1984年から1986年までの2年間のドイツ留学のチャンスを与えてくれたことに対する感謝心から、日独交流に寄与することを目指してきた私自身の正直な思いでもあります。ちなみに、本年10月24日(土)には、筑波大学東京キャンパス(丸ノ内線茗荷谷駅すぐ)にて、筑波大学とベルリン日独センターが主催する第5回日独国際会議・少子高齢社会と家族のための総合政策として、「すべての人に良質の労働と教育を-家族はなぜ良質の労働と教育を求めるのか?」と題した公開シンポジウムを開催することになっています。1人でも多くの参加を頂ければ幸いです。

以上

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