ドイツの学術研究の動向

在独PIによるドイツの学術研究の紹介(第5回)
「ドイツで研究する理由」津田賢一(植物・微生物相互作用)

2017-12-21

在独PIによるドイツの学術研究の紹介(第5回)「ドイツで研究する理由」
津田賢一(植物・微生物相互作用)

私は日本で博士の学位を取り、アメリカでポスドクを経験し、そして現在ドイツで研究室を主宰しています。私が現在所属するマックスプランク植物育種学研究所 (http://www.mpipz.mpg.de/en) には4つの大きな研究部門があり、その一つが植物・微生物相互作用部門で、現在私のグループも含め6つの研究グループによって構成されています。ここには世界中から学生やポスドクが集まり、植物と微生物相互作用研究における一大拠点となっています。6つのグループに属する研究者による深く活発な議論は刺激的かつ効果的であり、研究の進展に大きく貢献していると思います。
ヒトと同じように、植物もまた微生物を認識し応答する免疫システムを進化の過程で獲得し、病原体から身を守っています。植物免疫システムは病原体の排除に関わるだけでなく、ある種の微生物との共存共生に必須であることも近年わかってきました。また、自然界では、植物は自身の細胞数をはるかに越える微生物集団とともに生育することが明らかになってきており、植物と微生物は一つの生物集合体としても考えることが出来ます。植物と微生物の関係の理解を深めることは、作物の病気による農業生産の質や量の低下を防ぐことに貢献するだけでなく、自然界における植物そして微生物の本質的理解に繋がると考えられます。このような基礎研究への投資そして理解がドイツ、特にマックスプランク研究所の特徴であり、ドイツで研究する魅力のひとつになり得ると思います。
3カ国での経験からのひとつの結論は、研究はどこでも出来るし場所により違った魅力があるということです。どこで研究するのがハッピーかは人それぞれであると思います。そこで以下では、大学院生としてドイツで研究する利点をプラクティカルな視点に絞って紹介したいと思います。私の経験を元にしており、研究分野や地域によっては異なることがあるかもしれないと注記しておきます。
1. 学費が安い(~500ユーロ/年)
外国人も例外ではなく、ドイツの懐の深さを表していると思います。博士課程の学生には生活する上で十分な給料が支払われるのが通常です。
2. 日本の修士が有効
アメリカの場合、日本の修士を持っていても博士課程(5年)は短縮されないが、ドイツでは修士後、博士課程(3年)に進むので、日本で修士、ドイツで博士(3年)が可能です。
3. 大学院進学準備が少ない
アメリカの場合、諸々の書類とともにTOEFLやGREといった試験の準備が必要ですが、ドイツの博士課程にはそういった試験はないようです。
4. 豊富なフェローシップ
通常PIに雇用される形になりますが、グラントのタイミングなどの問題でPI側が長期雇用を保障出来ない場合があります。フェローシップに応募することは自分の研究について深く考える良い機会でもあり、PI側の問題をクリアしてくれます。実際に私の研究室にも競争的フェローシップを獲得した日本からの博士学生が2人在籍しています(中島記念国際交流財団、本庄国際奨学財団)。他にもドイツ学術交流会 (DAAD) などがフェローシップを出しています。また、ポスドクが獲得できるフェローシップもドイツにおいて選択肢が豊富です(フンボルト財団、EMBO、Marie Curie、FEBS、HSFPなど)。
最後に、マックスプランク植物育種学研究所における公用語は英語であり、研究においてドイツ語が必要な機会はほとんどありません。研究者の半分は外国人ですので、エキサイティングな研究とともに多様な人種と文化に触れることはとても楽しいです。

津田賢一(植物・微生物相互作用)
マックスプランク植物育種学研究所・グループリーダー
1994年札幌南高校卒業、1999年北海道大学理学部生物科学科卒業、2001年修士卒業、2004年北海道大学大学院地球環境科学研究科卒業、2005年よりアメリカミネソタ大学でポスドク、2011年よりドイツ・ケルンにあるマックスプランク植物育種学研究所で研究室を主宰。植物免疫システムの解明を目指している。

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